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2025.12.25

ー戦場のリアルとアニメーション表現への挑戦ー クリエイターズトーク@T・ジョイ PRINCE 品川 イベントレポート

この度、12月23日(火)に、クリエイターズトークイベント<メカニック&軍事考証ナイト!戦争アニメとしてリアルの追求秘話>が開催され、監督の久慈悟郎をはじめ、神菊薫(メカデザイン)、鈴木貴昭(考証)、門脇野乃(設定制作)といった本作のリアリズムを支えた中核スタッフが登壇。MCは本作のオフィシャルライターSYOが務め、それぞれが一言挨拶した後、イベントがスタートしました。

イベント冒頭、門脇が作中で日本軍が持っていた「三八式歩兵銃」のモデルガンを手に登場し、観客を驚かせました。この1.2mを超える「リアルな銃」と「3頭身の可愛いキャラクター」をどう共存させるかが、制作における課題だったといいます 。

鈴木は「3頭身だと手が銃に届かないし、頭が大きすぎて照準が覗けないという物理的な問題があった」と指摘し、それに対し神菊は「アップでは徹底的にリアルに描き、引きのシーンでは動かしやすさを優先して簡略化するなど、デフォルメとリアリズムのバランスをシーンごとに調整した」と苦労を述べました。

それを改めて聞いた久慈は、「神菊さんにはリアルを、門脇さんにはキャラとの折衷を無理にお願いしたが、スタッフが見事に描ききってくれた」と称賛。門脇も「カットごとに塩梅も調節したので、最終的にフィルムにうまく反映できてよかった」と安堵の表情を見せました。

神菊は「三八式歩兵銃は作中でとてもよく使われる武器で、リアルに再現しすぎて困らせてしまった部分もあるかもしれない。」と苦笑。すべての銃は1/1スケールのリアルさで描かれているとのことだ。それに対して門脇は「神菊さんは本当に真面目で、調べ上げて何度もディテールを詰めてくれていた。作中後半に日本軍が米軍のものを奪って切り詰めたM1カービンも登場する。これらについても構造などの詳細が分からなかったが、写真や歴史を調べることで設定や形に起こしてくれた。」と改めて感謝の意を送りました。

 

鈴木は本作のインタビューにおいて「人生1,2を争うくらい大変な考証だった。」と述べています。作中の写真や文字、暮らしや自然についても考証したという鈴木。「当初〈軍事考証〉として始まった仕事が、いつの間にかその枠を超え気付けば〈軍事〉の文字が消え去り〈考証〉全般を担当することになった」と苦笑し、当時を思い出していました。

日本側の資料がほとんどないことが課題だったため、アメリカ公文書館の資料を確認。アメリカで実際に録音した実銃の射撃音や、ポーランドで戦車に乗車した際の資料を共有することもあったといいます。

背景に描かれる海に沈む兵器の残骸も、元資料が現在の写真なのでそれが何であったのか当時の資料や記録から逆算して割り出し、経年劣化の壊れ方を逆算して描き起こされているのです

神菊は「実際の戦場の音との乖離が生まれてしまうことがとても怖かったが、完成作を見てクリップが飛ぶ音やボルトが動く音など、“本物の音“がしていて安心した」と完成した映像への手応えを語りました。

 

考証とアニメーション制作のすり合わせは、最終的に2年ほどかかったといいます。

久慈は「自分が勉強することも大変だったが、調べ方も分からないけど知らなければいけないようなこと(当時の地図の色味や郵便局の自転車の色など)もたくさんあった。それを鈴木さんがいつも24時間以内にどこからか答えを見つけてきて回答してくださった。」と当時の考証に感謝しました。

久慈はとにかく情報をコンテに書き込み、アニメーションに展開する作業。それらを繰り返した結果、原作・共同脚本を務めた武田からも「音響の良さに驚かされたし、実際にそこに生きていた生き物や景色も漫画以上になっていて嬉しい。」という言葉をもらったと、嬉しそうに語りました。

本作を鑑賞するのが2回目以上の観客が多かった本イベント。神菊からは、1回見ただけでは気づかないほどのマニアックな裏設定が明かされます。映画終盤、吉敷がM1カービンの切り詰め型を分解するシーンについて、「本来は分解するために一部ドライバーが必要だが、薬莢の底を使って代用できるよう作られているので、念の為、使用した弾薬を画面に1発配置してある。是非皆さんも探してみてください。」と語り、自らその原画も担当したことを明かし、観客に驚きを与えました。

 

他にも、「旧軍は帽子をかぶっていないと挙手の敬礼はしないというルールがある。田丸も少尉の部屋に入るときに敬礼をせず、帽子を脱いで部屋に入る。」など、細かなこだわりも詰まっているそう。鈴木は「ミリオタには常識です!」と述べ、観客の笑いを誘いました。

他に2回以上見ないと気づくことができないこだわりは?と聞かれた鈴木は「2,3秒しか映らないシャボン玉の中の日常風景(兵士たちの家族の姿が映る)にも、時代に即したものを描けているかを全て確認した。例えば手紙ひとつひとつの住所やその内容、建築様式に切手の形、紙の材質など…。実際かなり大変だった。」と当時の苦労を語っていました。

アメリカから取り寄せた資料も多々あったという鈴木に、神菊は「ほぼ探偵ですよね…。」と尊敬の念を送りました。

続いて観客の質問に答える場面では、具体的な戦車の名前や銃器の名前が飛び交うなど、マニアックな質疑応答が展開されました。

その中で、観客からの「遺体の描写がリアルで胸に来た」という意見に対し、久慈は、鈴木から提供された火炎放射器や銃による遺体の記録映像を直視した上で制作したことを明かしました 。「嘘はつきたくないが、PG12として子供たちにも見てほしい。そのバランスをスタッフ全員で描きながら探っていった」と語っています。

 

またそれに対して門脇も、生還した34名の生存者や、それ以外のキャラクターにも氏名、年齢、出身住所だけでなく「誰と誰が仲が良いか」という人間関係まで設定をしたと述べました。田丸が作中で手帳に描く絵の中には、その設定に基づいた兵士たちの交流が密かに刻まれています 。

これらの考証やこだわりに対して「やや狂気的とも言える」とMCに言われた鈴木は、「作品を見ている中で観客は違和感を持てば、その世界観から目覚めてしまう。そうなってはいけないと感じたからこその考証だ。」と締めくくりました。

 

最後に各々が本作への想いを語りました。門脇「今の世の中はいい意味でも悪い意味でも自分の想いを素直に言葉にできる。この作品を見て感じたことを、ぜひご家族や友人と話し合っていただければ嬉しい。」と述べ、久慈は「今日話したように、1カットごとに詳細に調べて真摯に作った作品。もっといろんな人に見てもらえたら。」と今後の作品の展望を祈りました。

鈴木は「2007年6月にペリリューに取材に行った際の資料を武田先生にお渡しし、今度は自分がその作品の映画化の考証に関わっている。」と長い道のりへの感慨を述べ、神菊は「人を殺す道具をリアルに描くのは気が重かったが、それが戦争を伝えるために必要だと信じて描ききった」と語りました。

客観的事実と徹底した考証に基づき、デフォルメされた世界の中に“リアル“を宿らせた本作。登壇者たちの言葉からは、戦争の狂気と平和への祈りを次世代に繋ごうとする、クリエイターたちの並々ならぬ執念が伝わってきたイベントとなりました。